倫理学概論 1
課題を提出して初めて出席点になるらしい。
【題目】
倫理学の基礎と現代における倫理的思考の射程
【内容】
倫理とは何か、倫理学とはどのような学問化について、ベースとなる人間観に注目しながら、倫理学の歴史をたどって考察する。ニーチェの哲学及び道徳批判を踏まえ、価値観が多様化した現代において、どのような倫理が求められるのかについて考えるとともに、科学技術の発展に伴い、倫理学にどのような広がりが求められているのかについても考える。
課題点 50点
平常点 50点
平常点は、授業毎に出される課題の回答で評価されるよ。
【今日の課題】
この講義を受講しようと思った理由、第一回の授業を受けて学んだこと、考えたことを600字以内の文章にまとめよう。29日23:59まで。
1.倫理とは何か、倫理学とはどのような学問か
さまざまな倫理: 生命倫理、医療倫理、環境倫理、動物倫理、看護倫理…
政治倫理、企業倫理
倫理は、人とのかかわりが前提となる。
倫理は人として守るべきものだから、人ではなかったら倫理とは言わない。
たとえば猫のふるまいを倫理とは言わない。
①倫理とは何か
倫理という言葉の意味
倫:みち、ともがら、なかま、たぐい
理:ことわり、道理、物事の筋道
倫理:複数の人々が集まって生活していく中で、人として守るべき道
「倫理」:人倫の道(広辞苑)
人として守り行うべき道
②倫理学とは何か
倫理学:社会的存在としての人間の間で共存の規範・原理を考究する学問(広辞苑)
(ethicsに井上鉄次郎があてた訳語) 哲学 西周
倫理の原理には二つの立場がある!
アプリオリで永遠不変なもの。カント
社会的合意による歴史的発展的なもの アリストテレス、現代の英米系の倫理学
共同体における人と人との関係を律する規範・原理・規則など、倫理・道徳を研究する哲学の一部門(大辞泉)
ethics←ethica(ラ)←ethos(ギ)
①住み慣れた地、住みか ②習慣、習俗、慣習 ③性格、気質
人々が集まって活動する際、それぞれの人柄が反映される。人々の共同体において、良きエートスをもつ人々の活動によって形作られるエートスこそが倫理の原型。
7/27 哲学概論
没交渉的なもの→死
自分の死を追い越すことはできない。では自分はどうしたいか、どう生きるのか、自分の在り方を決意すること。これが先駆的決意性。
自分ではなく他者にあわせるのは本来的な生き方ではない。
・自分が死ぬことを考えて怖くなってるのは非本来性から本来性への目覚めではない。怖いと感じるのは落命に対する不安。
なるべく死を考えないように、遠ざけてもやはり我々は死にかかわる存在なのだ。死にかかわる存在であるゆえに、常に死亡している。生まれるや否や死亡しつつある僕ら。
死亡=現存在が「己の死にかかわりつつ存在する仕方」
落命=現存在が「本来的に死亡することなく終わること」非本来的に死亡すること。自分の死と向き合わずに死んじゃうこと。先駆的な決意をしないままに。
自殺「死の実現を目指して配慮的に気遣いつつ狙っていること」
自殺「計算づくで死を思いのままにしようとすること」
死は追い越しえない「可能性」。可能性は可能性のままに持ちこたえねば。それを実現してしまうのは弱いことだから、自殺は弱いことだとハイデガーは主張。
我々は最初から共存在。一人でいても共存在。そうだとすると我々は共同運命。存在論的にはそういうこと。
【メルロ=ポンティ】
・我々の存在や認識における「身体」の働きに注目
・世界は先だってそこにあるもの。主観に左右されるものではない。
・世界に身を挺している主体
世界内存在としての私。(ハイデガーから影響を受けた概念)
・我々は徹頭徹尾世界と関係しているからこそ、そのことに気付くためには、このような世界と関係する運動を中止し、作用の外に置かなければならないのだ
・我々を世界に結びつけている志向的な糸を出現させるためにこそそれを緩める。
・世界全体を自分の内側に取り込んでしまうような思考はないんだ。
・還元のもっとも偉大な教訓とは、完全な還元は不可能だということ。
・現象学的還元とは、まさにこの私を「世界内存在」する「実在」として見出すための方法
・形相的還元によって事実からその本質へと至らねばならぬことを強調したフッサール→メルロは、その際の本質とは「目的」ではなく、事実を認識するための手段。
・還元によって了解されるべき志向性も、世界及びわれわれの生の自然的で前述定的な統一を形成する「作動する志向性」であって、これは判断や意志的態度決定といった「作用志向性」よりも根源的なものだよ。
述定する:言葉にする、言語表現する「SはPである」など。
本棚が右側にある!→意識だけで本棚が立ち現れているわけではない。身体によっても立ち現れる。身体の志向性。
もコスタは触ってなくてもふわふわだとわかる。もこすたにからだをむけめをむけただけでふわふわなことがわかる。思考でもって判断する前にもこすたはふわふわなのだ。
世界内存在する我々がデカルト的な二分法をのりこえるようなs「身体的実存」であることを明らかにしていくメルロ。
・順調に身体が機能してるときは、身体がどのように働いてるのかわかりづらい。
〈幻影肢〉
切断された手足が痛かったりかゆかったり。幻肢痛。
生理学による説明
抹消説:切断部位から大脳に通じる神経経路に加わった刺激が、切断された部位のそれとして誤って伝えられる。
→しかし、コカイン麻酔をしても幻影肢はなくならぬ。(抹消説ができなくなる)
中枢説:負傷した際の情動や状況を思い出させるような情動、状況が現れた時、それまで感じたことがなかったのに突然感じ始められたり。
心理学による説明
幻肢痛は患者が切断、欠損を拒否しようとする意志の表れである、とか、記憶や辛評に原因を求める
→脳に通じる求心性の神経を切断したらあっさり痛くなくなる。
幻肢痛がなぜ生じるのか、決定的な説明がなく原因がはっきりしない。
メルロ→物理的かつ相互人間的な在る世界のうちに参加している我、すなわち身体を媒質として世界内存在している私が、今までと同じく世界に存在し続け、欠損や切断を拒否
→例えば、字を書いたりピアノを弾こうとする場合、私の世界が私のうちに習慣的志向を呼び起こす、ちょうどその瞬間に「わたしがもはや実際にはその世界と合体することができない」ことから生じる
→我々が習慣的身体と顕在的身体というはっきりと区別される二つの層を身に着けており、顕在的身体の層からは袖に消えてしまっている、例えば手で触ってみる所作が、習慣的身体の層ではまだすがたを見せているからこそ、幻影肢、幻肢痛は起こる。
もう腕はないのに腕がある頃の記憶が残ってる。体が覚えてる。シロー…
顕在的身体は意識的
習慣的身体は前意識的
「身体図式」の組み換え、更新が行われることによって幻肢痛がばよばよ
我々は自分で自覚している身体の下に、自覚してない能力があり、それが我々の日々の生活を支えている。
間身体性
我々の体は個々にバラバラなのではなく、繋がってる。交流してる
身体と身体が相互に関係しあってる。
信号がまだ赤なのに隣の人が歩きだしたら自分も応ずるように足を踏み出してしまう:間身体性
身体同士が自覚する手前のところで交流しあっているのだ。私の体が他者の体をいわば併合してしまうのだ。私の右手と左手の間で一種の反省が起こるのは、それがただ一つの身体の手だからである。
メルロによれば、なにか、だれかが意味を帯びて経験されるのは、その表れのいわば手前で、時間の厚みを備えた身体が間身体的に志向性をはたらかせているから。
精神と物体を峻別した近世的に言論に対して、我々の存在には体が関係しているから何とか覆そうとした
■
フッサールについて意識の志向性が事象そのもの?
ハイデガーにとって隠されているのは存在者の存在。認識の働きが問題になっているのではない。事象そのものへ定式化。
意識の志向性による対象構成そのものを解明する認識論(フッサール)
ハイデガーの世界内存在
ハイデガーの世界
Ⅰ存在者の総体
Ⅱ現存在がそのうちにすみこみ、生きている場(その都度私を取り巻く世界)👈道具の連関
単なる事物
ex.今、ズームのミーティングのうちで生きている。私にとっての世界はズームで開かれてるミーティング。
通常は考えないことを根本から考えようとすると、その事柄を言い表すための新しい概念が必要になる。それを理解しないと、哲学者が言わんとしてることが理解できない。理解できると、ああそうだったのか!( ´∀` )になれる。ひとたび理解しなければアカデミアの世界には入れません。
ハイデガーによると、存在とは気遣い
現存在は世界内存在として、この世界に投げ込まれ、世界のほうから「働きかけられ」何らかの「気分」のうちで己の可能性を「了解」しつつ「企投」していくのである。
が、その際自分を取り巻くさまざまな道具に異を配り、また己とともにいる他者たちを顧みて、最終的には己じしんを気遣いながら生きている。
何らかの出来事を心配しながらそのつど気を遣う我々。
道具を準備したり、自分を守ったり、相手のことを考えたり…
道具への気遣い:配慮的気遣い
他者への気遣い:顧慮的気遣い
過去のことを思い未来のことを考える、時間的なこと
顧慮的気遣い
・特定の他者から気遣いを取り去って、他者の代わりに尽力する。
他者が気遣うべき事柄を代わりにやってあげる。
ex.誰かがレポートに困ってる!代わりにやってあげるよ。
もうその人は自分でレポート書かなくていい。渡されたものを先生に提出すればいい。
他者に依存することになる。
災害時のボランティアで、支援に入る。支援が受けられることが当然となり、自分では何もしなくなる人々→ボランティアに依存。支配を受ける。自分ですべきこともしなくなる
重篤患者の世話をする看護師。ある程度回復してきてもすべてのことをしてあげる看護師。するといつまでも自立はできない。道具的存在者を気遣うことになる(あれもってきてこれもってきて)
ズームの授業では首から上しか見えてない
下半身に名に身に着けてるか気遣う必要がない!
大学に来るときは自分の身に着けている衣服によって自分を判断することになる。
服にしみがついてることで居心地が悪くなる→他者からどうみられてるかによって自分を了解
他者との区別や他者との距離を気遣う
SNSなどででしゃばらないように、他者との距離を気遣う。出しゃばっている他人がいたら均等化しようとする
日常的な現存在は、孤立した「自我」から出発して初めて「他者たち」を認識するのではなく、そのつどすでに他者たちと世界を分かち合いつつ存在している。
他者も現存在
他者と相互共存在してる我々
相互共存在している日常的な現存在は、おのれならざる道具や他者のほうからおのれを了解して主体的自己を見失った「世人」の状態にあり、人が言うことを「語りひろめて語り真似、つねに新たなことを追い求めては秋、それゆえ人々の公共的な理解はあいまいなままである。
世人の公共性のうちに自らを喪失し、本来的な自己でありうることからさしあたりつねにすでに脱落してしまう。
人と同じことしてたら安心だ
日常性の存在の根本様式を、ハイデガーは「現存在の脱落」せかいに脱落していること、という。
現存在は、このような事故を喪失した「非本来性」のうちにある。気遣いには、脱落への宿命も構造上ふくまれる。
この私が世界内に存在していることによって、世界内存在であることそれ自体に気遣って不安になる。
非本来性から本来性へと目覚めさせるきっかけは、不安という根本気分
生きているといずれ死ぬ
死とは最も固有(自分で引き受けるしかない)(いつやってくるかわからないから交渉できない)
追い越しえない可能性(永遠の生を望むこともできない)
いつやってくるかわからないけど、必ずやってくる可能性
普段我々は死を考えない。実はそれは、死からの逃避。考えないようにしてるだけ。我々は(現存在は)死にかかわる存在なのである。人間は生まれ出るや否や、ただちに死ぬ年齢なのである!
死に対する不安という、この不安の対象は世界内存在そのものであり、この不安の理由は、現存在の存在しうることそのものである。
終焉すること=生命が単に終わること(動物が単に命を落とす)
落命すること=現存在が「本来的に死亡することなく終わること」
死亡すること=現存在が、「己の死にかかわりつつ存在する仕方」
やがてくる自分の死にかかわりながら存在することは、死亡していることになる。
私たちは生きながら死亡していきつつある。死を考えないという仕方で、死亡しつつある。自分の死を先取りすることなく。いつだって死にかけの生命。生まれた瞬間から死にかけの僕ら。
先駆的決意性・本来性
死への不安のうちで、世人としての自己喪失状態から引き離され、単独化する。
いずれは死ぬんだけどみんなで死ぬことはできない。自分は自分であり、人と同じことしてたらイケナイ。
追い越し不可能性に向かって、自由におのれを開放し(死ぬ気になれば何でもできる)
あるべき自分自身の在り方を選び取る。
死を先取りすることによって、本来自分がなにしたいのか、その可能性を選び取る。
現存在は「気遣いの呼び声」である「良心」の呼び声におうじて「良心を持とうと石すること」において、死という可能性のうちに先駆する。
良心はひたすら不断に沈黙という様態において語る。つねに「おまえはそれでよいのか」と問いかける良心。~せよと具体的な内容をかたりかけてこない。
なんかもうつかれちゃったし…今日はもうやめよっかな→ほんとにそれでいいのか?(良心ボイス)
「死」をさきどりしたとき、おまえはほんとにそれでいいのか?
先駆的決意性において、現存在は本来的自己になる。自分の死までを先取りしながら、過去を踏まえつつ、こうしようと決めるのは本来的な気遣い。
存在の意味を問い、確かめる。現存在という存在者を問い、存在者の意味を問い確かめる。
問いかけるべき現存在は世界内存在者。現存在を現存在たらしめてるのは、気遣い。それが現存在の存在。現存在の存在をなりたたせる気遣い、存在の意味とは何か?→時間制。
現存在の存在の意味は、ハイデガーによると「時間性」
世界内部的存在者のもとでの存在として、己に先んじて世界のうちで既に存在している
何かを気遣うのは、未来を先取りし、過去を踏まえつつ、道具や他者を気遣う。
先駆決意性とは、己の最終的な未来を先取りする。もっとも自分らしい在り方であろうと決意する。
先駆的決意性がかのうであるためには、現存在が死を先取りし、自分のものとして引き受けていなければならない。
いまだ来ぬ自分の死という可能性を可能性としてしっかり見つめつつ自分自身をあるべき自分へと「到来」させることだとハイデガーは言う。
現存在は死を先取りすることによって、自らがすでに経てきたこれまでのありようを改めてありのままにひきうけ、時々の状況の中で道具と現に向き合い、決意しつつ行為していくことができる。
既在:過去はすでにあり続ける。自らがすでに経てきたこれまでのありようを改めてありのままに引き受けること。
現成化:その時々のじょうきょうのなかで既存している道具と現に向き合う
先駆決意性:既存しつつ現成化する到来によってこそ可能になる
時間性:自らの死という可能性をしかと見つめつつ自分をあるべき自分へと到来させることで…
先駆的に決意すると、自分の目指すものが見えてくる。それを選び取る。それが自分の運命なのだ。
生まれ落ちて生きている状況は、過去からの積み重ね。それを引き受けるしかない。その中で未来がきまってくる。それは運命。決意した現存在は単独化。他者とのかかわりをたつのか?→そうではない。運命的な現存在も、世界内存在であり、他者との共存在。共同運命。民族の生起。
決意した現存在は己の運命を選び取るが、そもそも他者と共存在しているので、現存在の生起は共生起。現存在の運命は共同運命
現存在は他者と共存在であるがゆえに、共同運命でもあると論ずることができるのはいかにしてだろうか。
決意した現存在:自分で選択した存在可能の目的であるものに基づいて、自分の世界に対して、自分を開放する。現存在は自分自身への決意性によってはじめて共存在する他者たちを彼らに最も固有な存在可能において「存在」させることができ、彼らのこの最も固有な存在可能を、さきにとんで(手本を示す)前に出て解放する顧慮的気遣い
手本を示して、他者にも先駆的決意するように促す。決意した現存在は、他者たちの良心になりうる。死ぬ気になった人間が、他者たちも死ぬ気にさせよう。
決意した現存在の運命は共同運命
自分の決意で、他者たちも決意させるため。
先生:存在論の暴走じゃねーか!ハイデガーの鼻持ちならないエリート意識が漏れてますよ!
ヒトラーを総統と仰ぐハイデガーにつながっていくのだ。(たしかにね)
ナチスに協力したという事実があっても、ハイデガーが存在と時間において提示した現存在の存在論が、哲学史上、比類のない意義を有していることは確かだ。
看護のなかでも、ハイデガーの「気遣い」は非常に有効
むっず きっつ
無理
日常の現存在の在り方はあるある?人のこと気にしながら、人と合わせながら生きる
自分の死を特権化するハイデガー(先生は反対)
死を自覚するのはいいことだと思うよ。明日なんてないと思えばたぶんなんでもできる。
到来=自分の死を先取り
きざい=これまでのじぶんをうけとめる
ズームの世界内存在は居心地が悪い先生
0706 哲学概論
この紙は白いのである→白い紙をみるのは知覚。
キーボードうちづら!!
紙に書かれた三角形を見る感性的知覚(という基づける作用)に基づけられて、三角形という理念を見て取る普遍的直観がなりたつ。
・マッハの絵の左側にある物に関して、我々は「本」という意味合いでとらえる
↓どういうことか?
・対象が意識に与えられる。意識に与えられているのは背表紙の部分。それを本としてとらえる。意識に与えられる与件を本としてとらえる。対象は意識の外側。対象が意識として表れてきて、我々は本としてとらえる。我々は与件を意味としてとらえる。与件を「何か」としてとらえる。これには意識の志向性が働いている。
・意識の志向性に普段は気づかない。
例えば、今私はパソコンを見ている。先生が説明していることを理解しようとする。すると、私の関心は画面と画面内の事柄に向かってる。この状態は、意識の志向性が盛んに働いてる状態。しかしそのことに気付いていない。我々の意識の志向性はまっすぐ対象に向かってしまう。フッサールは、その意識の志向性自体を解明しようとした。
・私がもつ対象に向かう関心を括弧にいれる。括弧に入れることで、対象がどのように意識に向かってるのかに関心が向く?(与件、意味の段階に関心が向くということ)
・対象に向かう意識の働きをいったん置いて、対象に向かう意識そのものに関心を置く。
・先生をみると…後ろにたくさんの本がある。しかし先生のシルエットで隠されてる部分もある。しかし、わたしは先生で隠されてる部分にも本があると思うし、背表紙しか見えてなくても本だと認識する。👈意識の志向性を働かせているから。
・私たちの意識にはその都度身の回りの何かが何かとして表れているが、それは意識に何かが現象してくるいわばその手前で、意識が常に志向性を働かせているから。
志向性…意識に与えられる与件を何らかの意味合いのものとしてとらえようとする意識の働き)
・意識の志向性によって意味を帯びて現れている対象のほうに関心や注意を向けているので、意識の志向性の機能は自覚されることなく、いわば素通りされてる。
そのため意識の志向性の働きを明らかにするためには、意識に表れてる対象ではなく、まずもってその現象そのものに関心を向けるための「方法」が必要。
フッサールは、意識の志向性をみつめるために「現象学的エポケー」を行う。
・世界を括弧にいれる→世界を失う?いやそうではない
括弧に入れられた世界は意識に表れているんだから、世界の意識へのあらわれ!
・意識の自我がひゅれーをなにかとしてとらえる働きをノエシス
意識によってとらえられた限りでのものをノエマ
・意識の志向性の働きをノエシスの働きという。この働きによって世界は何らかの意味を帯びる。世界という意味→ノエマ
・世界は、自然科学的な自然(数学化された世界)
・自我は、何かが与えられたときにそれを意味としてとらえた場合に、いつも同じようにとらえるのではない。こないだと同じものだ!と捉えたら意味合いが変わってくる。
純粋自我が、持続的な関心や様々な習慣性を備えた自我であることが次第に明らかになっていく。意識に同じものが与えられても同じ意味は持たないことが明らかに。
志向的体験において、自我によってとらえられる志向的対象のほうも、そのうちに意味の歴史をもつことになる。きのうみたもの→きのうみたやつ、って意味を持つように。
意識の自我や対象の意味の発生の歴史をさかのぼって問う「発生的現象学」を遂行しなければ、意識の志向性による世界の意識的構成のありさまをあまねく解明したことにはならない!!
【間主観性】
・じつはわたしたちは、本を見た時、ほかの人々の意識にも同じように本として表れている、あるいは現れうるものだと思い込んでる。
・物事や人々がその都度意味を帯びて意識に表れ、経験さるる、その意味減少、意味経験が・・・
テトラの日記
私は玄関にて、ゆういちの帰りをお待ちしておりました。
午前二時過ぎ、ゆういちは大変やつれたようすで帰宅しました。ドアを閉めるなり、彼は私と目を合わせたままぼんやりとしていました。
「おかえりなさい、ゆういち。」
私が手を広げると、彼は半ば倒れるようにして抱き着いてきました。私はロボットなので、ゆういちに全体重をかけられても余裕のよっちゃんです。ゆういちが私にもたれたままピクリとも動きませんから、体重を測定しました。昨日より3kg痩せていました。
「おまちしておりました。今日は大変遅い帰宅でしたね。昨夜の帰宅時間から2時間オーバーしています。」
背中をなでると、彼はぼそぼそと言葉を発しました。普通の人間の聴力ならば、聞き取れないほどに小さな声でした。しかし私はロボットなので、彼の発した言葉をきちんと認識することができました。
「テトラ、でかけようか」
彼はそういいました。
ゆういちが外出に誘ってくださるのは大変希少なケースであり、大変喜ばしいことです。行かないわけがありません。
「もちろんです」
笑顔で応じる私に、彼もつられて笑いました。じゃあ行こうか、と出発を促す彼の手を握りました。彼の手は大変暖かく、柔らかいのです。コドモタイオンなんだ、と教えられています。ゆういちはコドモタイオンなのです。
彼は私を自転車の籠にのせて出発しました。前方が見えづらくならないか心配に思いました。不安げに見つめる私に気付いたのか、ゆういちは
「少しでも長くテトラを見ていたいんだ」
と恥ずかしそうに言いました。ゆういちへの大きな愛が発生しました。
愛おしいゆういちを少しでも長く見ていたいので、私は後ろを振り向いてひたすら彼を見ていました。午前二時を過ぎるとさすがに人気が少なく、辺りはとても静かでした。ゆういちの黒い髪は、夜風をうけてそよそよとなびいていました。再び愛が発生しました。自動販売機の明かりが一瞬ゆういちの頬をあかるく照らしました。目の下に刻まれた深いくまが、痛々しかったです。
到着したのは、古めかしい銭湯でした。ゆういちは、私を抱えて籠からおろしました。地面に降り立った私はゆういちの手を握りました。彼と一緒にいるときはできるだけ、彼に触れていたいのです。
ゆういちはぼんやりと歩いていたのか、温泉のマークがプリントされたのれんに衝突して悲鳴をあげていました。私がのれんをめくると、彼は顔を赤らめてぺこぺこと頭を下げました。成人男性とは思えない愛らしさを、彼は持っているのです。
引き戸をあけたゆういちは、先に私を室内へといれました。以前私は彼のこの行動を大変疑問に思ったので、意図を尋ねました。すると彼は、レディーファーストだよと教えてくれました。ゆういちはレディーファーストができる素敵な大人なのです。
券売機で家族風呂のチケットを買い、私たちは店員さんに案内された個室へと向かいました。古めかしい外観に似合わず、脱衣所は清潔が保たれていました。私たちはさっさと脱衣をして、浴場へむかいました。ゆういちは、二人で入浴をする際はいつも下半身にタオルを巻きます。理由は、察してくださいとのことでした。私はいまいち察する能力に欠けていますので、日々精進していきたいと願う所存です。
ゆういちは、お湯に足をいれるなりため息のようなものをつきました。なので私も真似して、口腔内の空気を吐き出しました。
「ゆういち、このお湯は大変暖かいですね」
「家ではほとんどシャワーだからね」
しばらくの間、ゆういちはたっぷりの熱いお湯を贅沢に堪能していました。そんなゆういちの背中に、わたしはぴったりとはりついていました。彼の体は大変貧相なので、彼の胴体には容易に腕をまわすことができます。背中に耳を当てると、彼の心音、呼吸音が聞こえてきて、大変素晴らしいと感じました。ゆういちは、生きてる。
お湯に浸からず外気にさらされている私の肩に、ゆういちはお湯をたらしました。私の肌は防水加工を施されているため、お湯を一滴残らずはね返しました。それが大変面白かったのか、ゆういちは嬉々としてお湯を私の肩にたらし始めました。
「すごいな、油塗ったフライパンみたいだ」
ゆういちの発想がやや女性的だったので、少々おかしく笑ってしまいました。
「そうですよ、自慢の防水加工ですから」
「なんどやっても楽しいな、テトラの肌に水たらすの」
「楽しんでいただけて、私も大変うれしいですよ」
そうして私たちは、手で水鉄砲をしたり、お湯をかけあったりして遊びました。ゆういちの手は大きいので、水鉄砲をするとよくお湯が飛びます。しかし私はロボット。狙いを定めた場所に的確にお湯が飛んでいきますし、天井にまで届くほどの威力をもった水鉄砲ができます。ゆういちは、君には負けたよと言って私の頬をぷにぷにとつつきました。私も真似をして、ゆういちの頬をぷにぷにとつつきました。ゆういちは痩せているので、硬い頬をしていました。
お湯からあがり、早々と体を洗い終えた私たちは、ほかほかとあたたかな湯気に包まれながら浴場をでました。着替えをもってきていなかったので、着てきた服をそのまま着ました。
待合室にあった自動販売機で、ゆういちはコーヒー牛乳を購入しました。ふたりで分け合って飲みました。私は味覚がそこまで発達していないので、味はよくわかりませんでしたが、ゆういちが「涙が出るほどうまい」と言っていたので、これは大変おいしい飲み物なのでしょう。
待合室にいたおじいさんは、私を物珍しそうに見て、「こんばんは」と声をかけてきました。「こんばんは」と挨拶を返すと、おじいさんは拍手をしました。
「大変賢いロボットですね、いくらでしたか」
ゆういちは、突然おじいさんに話しかけられてやや戸惑っている様子でした。
「私は中古品ですので、16万円ほどご準備いただければ購入できますよ」
私が代わりにお答えすると、おじいさんは再び拍手をしました。ゆういちは、あまり嬉しそうではありませんでした。うれしいどころか、悲しそうでした。
「俺、この子のことを本気で愛してるんです。なので、その…」
ゆういちは、私の肩を抱き寄せました。
「ロボット扱い、しないでいただけますか」
おじいさんは、少し固まった後、すぐに謝罪しました。
私はゆういちのことが大変いとおしくて、あまりにも愛おしすぎて、故障してしまいそうになりました。
背後のテレビから、放送休止の機械音が流れ始めました。受付であくびをしながら新聞を広げているおじさんの湯飲みから、ゆったりと湯気が立ち上っていました。受付横のラジオから、ノイズ交じりの演歌がながれていました。ゆういちは、私の肩に頭をうずめました。彼のシャンプーの香りが、私に幸福を発生させました。今なら世界のすべてを愛してしまう、そんな気持ちになりました。確かに私はその時、私たちを取り囲む環境のすべてに愛を感じていたのです。
いつまでもこの幸せが続いていくことを推測して、私は大変うれしく思いました。
6/7 AM5:48:32
■
わてくしは ダーリン様を心の底から愛しているの。
ダーリン様っていうのはね、ええっと、ダーリン・ストロベリーカクテルっていうお名前をもった、かっこいい吸血鬼で、えっと、愛する旦那様なの。
ダーリン様は日が沈んだら目を覚まして、わてくしと穏やかに時を過ごし、
日が昇ったら ひやりと宝石みたいに冷たい棺の中へ その身をお納めになる。
わてくし、もう、ダーリン様をあいしているから、心の底から愛しているものだから、ダーリン様がそのうるわしいお体を棺の中にお納めになった後も、その棺にぴっとりと寄り添って…冷たい空気に包まれて眠る彼のお姿をうっとりと想像しながら、眠りにつくわ。
まるで夢のような時間なの、彼と過ごすひと時は。
わてくしたち、この世界で暮らし始めてとうに300回以上の冬を迎えたわ。ダーリン様はおっしゃるの、冬が来るたびにその大きな瞳をじっと細めて
「お前は冬がよく似合うね、髪も肌も真っ白なんだから」
ってね。
わてくしを魅了してやまぬダーリン様は、物憂げにそんなことをおっしゃって、
次の瞬間にはやわらかに笑う。そしてわてくしの頭をポンポンとなでる。
金平糖を天秤に均等にのせていくようなやさしさで、そっと。
わてくしもう、そんなことをされたらたまらなくなってしまって、頬を真っ赤に染め上げてしまうわ。するとダーリン様、おや、おいしそうな林檎だね、どれ、味見をしてみようかといたずらに笑って、わてくしの頬に牙をたてるの。
まったく意地悪なダーリン様。でもそんなところもいとおしくて、わてくし、こんな素敵な方と永遠に一緒にいたら、狂ってしまうわ。
幸福に、頭のねじをひょいととられてしまっても、8000年は気づけずにいるわ。
昨晩ダーリン様は、窓の外にちらつく白い粉雪をご覧になって、大変楽しそうにしていらっしゃった。
「みろミラーボール。初雪が降っている」
わてくし窓に身を乗り出して、その雪をつかもうとした。
するとダーリン様はやさしくわてくしの肩を抱きしめて
「外へ出ようか。朝はまだ来ない」
とおっしゃった。だからわてくしうれしくて、大きくうなずいたわ。あたたかい冬物のコートをタンスの奥から引きずり出して。
ダーリン様は、コートにマフラー、耳当て、手袋でふくふくとやわらかそうになってしまったわてくしを見ておかしそうにわらい、お前はほんとうにかわいいと呟かれた。
なんて幸せなのでしょう。
感動でうちふるえるわてくしに、ダーリン様はその白く美しい手を差し出して、手をつなごうと微笑んだ。わてくしは可憐に胸がときめく心地がして、涙ぐみながらその手を握りしめたわ。
一度外に出てみると、辺り一面が真っ白に染まっていて、世界は終わってしまったのかと思ったわ。雪は朝から降り続いていたみたいなの。外は本当にしいんと静かで、神様が世界中の音という音を奪い去ってしまったようだった。
ダーリン様はさくさくと雪を踏みながら、前へ進んでいく。わてくしも手を引かれて、寒い冬世界へと足を踏み入れていく。吐く息は白くて、魔法を使えるような気持になったわ。吐く息が白く色づいてふわりと漂うのがおもしろくて、なんどもはあ、はあと息を吐いていると、ダーリン様は振り向いて、わてくしの吐き出した白い息をぱくりと食べた。
表情に何の変化もないものだから、何が起こったのか理解できずにぽかんとしてしまったのだけれど、ダーリン様がにやりと面白そうに笑って
「犬にでもなりたいのか?俺は一向にかまわんが」
とおっしゃったので、即座にリンゴ病を発症したわ。
赤く染まった頬に、ダーリン様はかぷりとかみついた。すると、一瞬スッと気持ちよくなって、頬に血が伝うのを感じた。白い雪のじゅうたんの上に赤い赤い血がぽたぽたとたれて、まるで赤い花びらが舞い落ちたようにみえた。
わてくしが呆然としているうちに、ダーリン様はわてくしの手を突然に放って遠くへ走り出したの。わてくし慌てて正気に戻って、ダーリン様どこへと急いでついていったわ。
するとダーリン様ね、地面にしゃがみこんだの。次の瞬間よ。
わてくしになにかを投げてきたの。それがわてくしの体にあたってほろほろと崩れた時、わてくしは雪玉だと気づいたわ。
そこから雪合戦。わてくしたちゆきにまみれて、子供みたいに笑いあった。
本当に楽しかったわ。
ひととおり雪合戦を続けた後、二人で抱きしめあいながら雪の上に倒れこんだ。
はあ、はあ、って息切れ。わてくしたち、壊れたみたいに息切れするお互いの顔を見つめあって、笑った。
仕返ししたくなっちゃって、ダーリン様の白い息を、ぱくりと食べた。
ダーリン様はすこしぽかんと瞬きしたあと、大変いとおしそうにため息をついて、わてくしの頭をぎゅうと抱きしめた。
頭上に輝きますは、深い雪雲の合間からこぼれる、満天の星空。冬の空の透明度はどんなときよりも群を抜いて、高い。透明度の高い空はわてくしとダーリン様を魅了してやまない。雪雲の合間の、細い境目から顔をのぞかせる美しい空に、ふたりでしばらく見入っていたわ。
夜空を見ていると、ふいにおセンチな気分。なんだか不安で、足元の見えないような寂しさに襲われて、ダーリン様の首元に顔をうずめた。
「ダーリン様、わてくし、あなたと離れたくないわ」
雪がもたらす静寂は底なしに深くて、ダーリン様の声すらも届かなかったらどうしようかと思ったけれど、ダーリン様はやさしくわてくしを包み込んでおっしゃった。
「俺はずっと、お前と離れる気はないんだ」
「ダーリン様はここで眠ってしまったら、この雪たちの仲間入りね」
「日が昇るからね」
「うん」
そうしてわてくしたち、どちらからともなく静かに目を閉じたわ。
もう何百年もそのうるわしいお背中に寄り添ってきたのですもの、あなたの考えていることなんて、外に出ようかと提案された時から、わかっていたわ。
それでもわてくしは止めません。あなたが望むことならなんだって叶えてさしあげる。
だって、愛しているんだもの。
…なーんてね。
「はい、お遊びはおしまいですよダーリン様。眠たいのならば棺の中でお眠りくださいっ!!」
わてくしはダーリン様の閉ざされた瞼の上にキスして、彼の細い腕をぐいと引き上げた。起き上がった彼が何かおっしゃる間もなく、ぎゅうと抱きしめる。
あなたが死にたいと望むのならば、わてくしはあなたを監禁し全身を拘束してでも死なせないわ。なにも食事をとらずに衰弱死しようとお考えになるならば、ひっつかまえてわてくしの血管とダーリン様の血管をつなぐ。わてくしがあなたの点滴になるの。ダーリン様、あなたが悪いのよ。わてくしを夢中にさせたあなたが。
だって 愛しているんだもの。ぬけぬけと死なれてたまりますか。