たゆたうくらげ

くらげちゃん

 デジタル時計の3:30を見て夜宵ちゃんは頭の中が空っぽになりました。今日も眠れなかったのです。もう六日間は一睡もしていません。二年ほど前から年々酷くなっていく不眠症は、今日も今日とて夜宵ちゃんを苦しめていました。夜宵ちゃんは疲れてしまって、眠りたいとも思わなくなりました。下まつ毛にぬったマスカラは、彼女の不眠症に対する最後の抵抗。深く根付いたくまを長いまつげが覆い隠します。泥のようにふらふらする体を布団から起こして、ぽかんと口を開けたまま傷だらけの手首を見ていました。眠れもしないくせにご立派に布団の上なんかに寝転んで。人間ごっこもたいがいにしとけよ。夜宵ちゃんはそう思ったので、今日も手首を切りました。腕を切る痛みなんて、存在する痛みに比べたら取るに足らないほどちっぽけなものです。

 昨夜から着替えてもいなければシャワーもあびていなかったので、夜宵ちゃんはシャワーを浴びに行きました。電気をつけるのを忘れたので、髪をボディーソープで洗いました。夜宵ちゃんの髪がばさばさな理由はここにあるのでしょう。冷たい水にビオレがまざり、白い泡が夜宵ちゃんの細い体をするすると伝っていきます。お湯を出すのが億劫で、水で全身を洗いました。なんだか浄化されていくような感じがして、水で洗うのを彼女は好みました。身支度を終えると、夜宵ちゃんは、昨日からきているしわだらけの制服に腕を通して、下まつ毛にマスカラひいて、まだ暗い街に飛び出していきました。頭上の星空なんて、彼女の眼中にありません。

 下駄箱につき、上靴の中に案の定大量のメダカの死骸が入ってることを視認した夜宵ちゃん。小兎ちゃんの上靴も確認してみると、中には「白痴」と書かれた紙が入っていました。夜宵ちゃんは無表情にその紙を破り、口の中に押し込みました。

 靴下ははき忘れてきたので、はだしのまま階段を駆け上がりました。暗くて静かな校舎。大好きな小兎ちゃんに会うために、大嫌いな学校に今日も登校したのです。小兎ちゃんは、学校が好きです。さきほど切ったばかりの手首の傷が暗い校舎の中でぬめりと赤く光りました。なんだか赤いリボンを手首に巻き付けているようで、夜宵ちゃんは愉快な気持ちになりました。重くてたまらなかった体も、小兎ちゃんに会うためなら軽やかになるのです。夜宵ちゃんは小兎ちゃんの喜ぶ顔がなによりも好きなのです。クラスメイトの嫌がらせも、望みのない将来も、自殺願望も、小兎ちゃんと出会ってしまったことへの後悔も、なにもかも一切合切吹き消してくれる彼女の笑顔。お誕生日にろうそくの火を吹き消す幼いこどものような笑顔。夜宵ちゃんにとって、小兎ちゃんは仏であり、宗教でした。夜宵ちゃんだけの神様。愛すべき神様!無知な彼女の頭に蓮の花が根付こうとも、その蓮の花を育てていく自信が夜宵ちゃんにはありました。小兎ちゃんは汚いことなんて何も知らなくてよいのです。

 教室に小兎ちゃんはいませんでした。それもそのはず。毎日小兎ちゃんの上靴や机に嫌がらせをされているので、その処理をするために、夜宵ちゃんは小兎ちゃんより早く登校します。小兎ちゃんは、上靴の中の悪口も、机の上に置かれた牛乳のしみ込んだ雑巾も、なにもしりません。それでいいのです。夜宵ちゃんが小兎ちゃんを守るから。だって小兎ちゃんは宗教だから。夜宵ちゃんは、暗い教室の中で小兎ちゃんの机の上のぞうきんを口元でしぼって牛乳を飲み、カッターで切り裂きました。そしてごみ箱の中に捨て、持参した綺麗な台ふきと除菌スプレーで掃除しました。これで今日も小兎ちゃんは、楽しく一日をおえることができるでしょう。クラスメイトのクズたちは、教師に悪事がばれぬよう、日中は目立った嫌がらせはしてこないのです。だから夜宵ちゃんがこうして小兎ちゃんが登校する前に処理をすれば、たいていのことは小兎ちゃんにばれません。

 一通り掃除を終えた夜宵ちゃんは、窓辺の本棚に頬杖をついて星空を眺めます。小兎ちゃんが隣にいない星空観賞なんて、ただ頭上に散らばったごみくずをまじまじと見つめているのと同然です。星も消しカスも似たようなものです。夜宵ちゃんは、流れ星になってしまいたいと思いました。人知れず輝いて砕け散る、何光年も宇宙を旅する流れ星に。夜宵ちゃんの母親が亡くなったとき、喪服に身を包んだ夜宵ちゃんの祖母はいいました。_お母さんはね、自殺したのではないよ。流れ星になったのよ。満天の星空の下、高い高いビルの屋上から、宇宙への希望を胸にして、飛び降りたんだよ。流れ星になるのはお母さんの夢だったのだから_白くて可愛らしい箱に収まった原型をとどめぬ母の姿は、夜宵ちゃんの記憶の中のどの瞬間を切り取っても比にならないほどに、美しいものでした。幸福の表象のようでした。厳格で、洗練されたその葬式で、夜宵ちゃんは涙を一滴もこぼすことなくただひたすらに流れ星になった母が飛び降りて砕け散るその様子を想像していました。死ぬって、なんなんだろう?幼い夜宵ちゃんは、ぽつりと考えたものでした。

 ああばからしい。退屈しのぎに、本棚から手さぐりに文庫本を探し当て、ぱらぱらとページをめくりました。手に取ったのは、ヴェルヌの『海底二万里』でした。夜宵ちゃんが中学生の時に途中で読むのをやめてしまった本。外国の作家が書く文章は、どうにも肌に合わず、たいてい途中で読むのをやめてしまうのです。『日々の泡』なんかは大変美しいのだから、一度は読むべきだと言われて読んではみたものの、退屈であくびがでてしまいました。夜宵ちゃんは、かつて称賛された日本の文豪を愛する傾向が強いのです。しかし小兎ちゃんにこのような話をしても、彼女は全く理解をしません。なぜなら小兎ちゃんは読書を嫌うからです。自分が話す言葉や、自分のものだと信じて疑わなかった思考が、いつの間にかほとんど他人の模倣だと気づいたその日から、読書がばかばかしくなり、小兎ちゃんは部屋にあった本を一冊残らずマッチで火をつけて燃やしてしまったのです。大胆な子です。夜宵ちゃんはどちらかというと本を読む人間なので、その話をきいたときには大変驚き、「小兎はわかってないなあ」と言っては見たものの、本当はなにもわかってないのは自分のほうなのではないかという気がして、少し恥ずかしくなりました。価値観なんて人それぞれなのだから、と小兎ちゃんはにっこり可愛らしく笑うのですけれど。

 海底二万里を本棚に戻している間、ふいに教室の扉が開く音がして夜宵ちゃんはゆっくりと振り向きました。暗闇のなかに、小柄な女の子がふわふわ長い髪をゆらして立っています。その人物は紛うことなく、愛する小兎ちゃんでありました。

「やよちゃんおはよう」

陶器のように青白い肌に微笑みを浮かべて、小兎ちゃんはふらふらと夜宵ちゃんのもとへ歩いていきます。夜宵ちゃんは、甘い香りを漂わせる小兎ちゃんに瞳を揺らしました。今すぐに飲み込んでしまいたい、と思いました。小兎ちゃんがおぼつかぬ仕草で本棚に頬杖をつき、「まねっこ」といってぺろりと舌を出したときようやく、星空は鼓動を始めました。見違えるように美しく、星々が降り注ぐのが見えます。空から呼吸が聞こえてくるようです。赤くて細い三日月が、いつもよりも大きく見えます。月が大きく見えるときは、月本体と地球の距離は関係なく、周りに対象物があるか否か、だということを夜宵ちゃんはなぜだか知っていました。本か何かで学んだのでしょう。ねえ小兎、読書も捨てたもんじゃないよ。

「やよちゃん空を見ていたの?」

「そうだよ。昨夜ラジオで流星群予報やっててさ、今日はよく降るんだって」

「星がたくさん降るのは寂しくないね。私はラジオを持ってないんだよ」

小兎ちゃんは、じぃっと夜宵ちゃんを見つめます。夜宵ちゃんはすぐに、小兎ちゃんがラジオを聞きたがっていることを直感しました。なんだかいじらしくて、抱きしめたくなりました。抱きしめた後窒息してしまう小兎ちゃんを見てみたい、とも思いました。あどけなく目を閉じて、くったりと夜宵ちゃんにもたれて心臓をとめる小兎ちゃんは、夜宵ちゃんへのプレゼントですね。なんてかわいいのでしょう。とろりと溶かして胃の中へ収めてしまいたい。

小兎ちゃんが夜宵ちゃんを見つめている間、星がいくつも二人の頭上を横切っていきました。速度を失わずに、瞬く間に消えていくその光は、だれにも気づかれないまま死んでいきます。いまこの世界は二人きりで、小兎ちゃんは、全ての人間が燃え尽きて灰になってしまったのではないかと思いました。みんなみんな灰になったら、どれほどたくさん積もるのでしょう。夜宵ちゃんと二人で高い高い灰の城をつくり、その頂点に登れば、星を一粒食べることができるかもしれません。星はきっと、一口噛むとしゅわりと消えて、無味なのかしらん。けれど大変暖かな口当たりがするかもしれません。それは、全人類が灰になるまでのお楽しみです。早くみんな灰になってしまえばいいのに。小兎ちゃんには、夜宵ちゃんとママとパパさえいればいいのです。ママは今夜、小兎ちゃんの大好きなミネストローネを作って待っていると言いました。小兎ちゃんは、まだまだ朝早いけれども、もう夕飯が楽しみです。

 「やよちゃんやよちゃん、今日のわたしの夕飯はね、ミネストローネなんだよ」

夜宵ちゃんは、小兎ちゃんに優しく微笑みます。星々の青白さが、夜宵ちゃんを夜空へぼやかします。小兎ちゃんは、夜宵ちゃんが世界とピントがずれていってしまいそうで、夜空の仄暗さにぼんやり滲んでしまいそうで、このまま消えてしまいそうで、なんだか不安になりました。夜宵ちゃんはいつだって、世界とピントを違えるあと一歩のところで踏みとどまっているようにみえるのです。もうなにも世界に期待をしなくなったら、ピントが壊れて瞬く間にぼやけていき、見えなくなってしまいそうなのです。崖っぷちなのです。小兎ちゃんは夜宵ちゃんの手を握りました。離れないように強く握って、自身の胸元へ寄せました。

「小兎?どうしたの」

「やよちゃん、あのね、なんかやよちゃんが迷子になっちゃいそうで少し怖くなったんだよ」

「迷子って、わたしは子どもじゃないよ。心配しないで」

ちがう、と小兎ちゃんは思いました。子どもとかじゃなくて、そうじゃなくて。世界に極彩色のいらないものが溢れすぎて、あなたを見失ってしまいそうなんだよ。散々色にまみれた最後、極彩色の合間にあなたはふと手を振って、誰にも見えないところへひょいと自分をしまい込んでしまいそうなんだよ。静謐なあなたは、溢れかえった喧騒にかき消されてしまいそうなんだよ。あなたの脆くて透明な魂はもうすでに、ここにはないような気がするんだよ。もし消えてしまうならわたしの存在もかき消してほしいんだよ。どこへでも連れてってほしいんだよ、だってあなたが好きだから。

 小兎ちゃんは、脳みその中で渦巻くふわふわとした思考をつかめませんでした。とめどなく溢れでる思考たちは、ここまでおいで、と悪戯に小兎ちゃんをからかいます。本を読むことをやめたから、小兎ちゃんの話す言葉は小兎ちゃんからしか生まれません。小兎ちゃんが生んだ言葉は産声をあげたばかりで正しく意味が機能しません。小兎ちゃんはそのことを知っていました。だから夜宵ちゃんに何か伝えるには、時間が必要でした。

「こんなにたくさん星が降っていて、人は燃えたら灰になって、たくさんたくさん、記憶が増えて、やよちゃんがその中に埋もれてしまうかもしれなくて、追い出されてしまうかもしれなくて、それはほんとうにこわいことで、えっと、えっと」

小兎ちゃんは目を回します。言葉はむずかしい、言葉はいつだってすっからかん、言葉はぜんぜん足りない、それか、もしかしてその程度なのかな。視線がぶつかりあっただけで気持ちのすべてがやよちゃんに浸透すればいいのに、触れ合うだけでやよちゃんとわたしの魂が絡みあってぐちゃぐちゃになればいいのに。

「小兎が怖がることはしないから。それにわたしが埋もれたら、小兎が助けてくれるでしょ?」

夜宵ちゃんは、優しい目をして小兎ちゃんをなだめます。小兎ちゃんはそんな彼女を見上げました。夜宵ちゃんは背が高いのです。小兎ちゃんを優しく見守るその姿は、夜空に浮かぶお月様のようでした。

「うん、うん、助ける、だって一番のお友達だよやよちゃんは、宇宙で一番」

「宇宙なんかにとどまってはさびしいな、宇宙なんか飛び越えてよ」

「じゃあ宇宙の外!宇宙の外には海があるねー」

「ん?海?」

「宇宙なんて、そのへんの砂浜の砂の一粒に過ぎないとおもうんだよー、その宇宙をでたら、また砂浜」

「なるほどね。では明日は海へ出かけよっか。砂まき散らしてさ、宇宙なんて踏んづけちまおう。踏んだ分だけわたし達はいなくなるね」

「今わたしの隣にいるやよちゃんがいてくれればそれでいいよ!どこにでも連れてってよ、わたしはやよちゃんから離れたくないんだよ、この宇宙にはやよちゃんしかいないんだから」

夜宵ちゃんは、うるんだ小兎ちゃんの瞳を見つめました。彼女の美しい瞳には夜空が反射していて、たった今流星群が横切りました。あ、やっぱりそれは宇宙なんだ、と夜宵ちゃんは思いました。同時に、祭りの後の寂しさのようなものも感じました。宇宙、宇宙、宇宙。小兎ちゃんと夜宵ちゃんだけの、静かな静かな二人の宇宙。

しかし夜宵ちゃんは、ただ一箇所、歯車が違えはじめているのを知っていました。宇宙の心臓部とも言える部分が違えてしまって、そんな部分が壊れてしまったら、残りの歯車ももうじき噛み合わなくなってしまいそうで。そのことが小兎ちゃんにばれないように、いつの日からか、愛するその宇宙の中で、夜宵ちゃんは息を殺すようになっていました。夜宵ちゃんは、壊れた歯車を修理することをやめてしまって、この宇宙が壊滅してしまうまで、このままひっそりと息を殺しているつもりでした。もちろん小兎ちゃんはそんなこと、知りません。

 後ろめたさに、夜宵ちゃんは目をこすりました。手にマスカラがついてしまいました。

世界への最後の抵抗はマスカラ。なんだか悪あがきをしているようで、夜宵ちゃんは自分が滑稽にみえました。本当は、目の下のくまも、腕の傷も、みんなみんな自分を守る盾なのかもしれません。自分が世界を嫌っていることを再確認するための、目印なのかもしれません。傷ついた自分をみて、ああ今日もわたしは世界に染まっていないと、安心したいのかもしれません。夜宵ちゃんは自分が他人のように思えて、なにも分からなくなっていました。わかることはただ一つ、小兎ちゃんのことを深く愛しているという事実でした。無情にもその事実が、二人の歯車の違えを引き起こしてしまったのですが。

「なんか少し安心できたよ」

小兎ちゃんはふんわりと笑いました。幼い笑顔は、この世のものとは思えないほどに可愛らしいものでした。

「でもねやよちゃん、ほんとにわたしはこわいんだよ。どこにも置いていかないでね」

「置いていかないでって…またそんなこという。本気にしちゃうからやめなさい」

「わたしはほんきでこわいんですー!」

やわらかな頬を膨らませる小兎ちゃん。夜宵ちゃんは、手のひらの上でころころ変わる表情が、愛しくてたまりませんでした。そして愛情が漏れ出してしまわないように、視線を逸らしました。

「じゃあ死ぬときは二人で駆け落ちしよっか。」

不意に、用意していなかった言葉が夜宵ちゃんの口からぽつりとこぼれました。あれ、私今なんて言った?夜宵ちゃんは、瞬く間に額に汗が浮かんだのを感じました。心臓の鼓動が速度を増しました。

「かけおちー?なんだそれ」

「あ…いや、えっと」

小兎ちゃんは不思議そうに首を傾げます。時間は巻き戻せません。もうどうにでもなってしまえばいいと、夜宵ちゃんは諦めました。

「…一緒に逃げるんだよ、すべてから」

大きく見開かれた小兎ちゃんの目が輝きます。

「いいね!では宇宙へかけおちしましょう!」

「そうだね、宇宙ね。

寂しげに微笑んだ夜宵ちゃんに、小兎ちゃんは細い小指を差し出しました。夜宵ちゃんはその小指のわけがわからず、ぱちぱちと瞬きをしました。

「約束だよ!指切りげんまんだよ!」

一点の曇りもない笑顔で、小兎ちゃんは言います。夜宵ちゃんは、なんだか悪いことをしている気分になりました。彼女の無知を利用して、騙しているみたい。それでも彼女からの愛が嬉しくて、そっと自身の小指を絡めました。

「うん、約束だ。」

夜宵ちゃんが小兎ちゃんについた、最初で最後の嘘でした。

絡めた小指を離して、夜宵ちゃんは、小兎ちゃんの頭をぽんと撫でて再び窓の外へ視線を向けました。ごめんね小兎、その約束守れないかもしれない。だってわたし、今すぐにでもここからいなくなりたいんだ。星空からお母さんが手招きしているんだ。小兎を巻き込むわけにはいかないんだよ。だからせめて、私のいなくなるほんの最後の瞬間まででいいから、一緒にいてくれないかな。

淡い青が深い夜の濃紺にとろけはじめていました。夜はもうじき幕を下ろしてしまうでしょう。

 仄暗い雲間から滲み出した黄金の光、卵の黄身のように生み出された新しい太陽光は、小兎ちゃんの単純な心から不安の一切を吹き消してしまいました。小兎ちゃんは目を輝かせました、ああ、今日はどんなに楽しい一日になるだろう!小兎ちゃんは、夜宵ちゃんの背中にもたれて、漏れ出した朝日を宙でなぞりました。指先に感じる暖かさを真一文字に引いたりして、小兎ちゃんは無邪気に遊びます。夜宵ちゃんは、背中に感じる小兎ちゃんの暖かさを、ただぼんやりと胸に刻みつけていました。睡眠の足りない朧げな頭の中で、この一瞬を閉じ込めて甘い飴玉を作りたいと考えていました。彼女はいつだって世界を嫌うけれど、小兎ちゃんと一緒にいる間だけは、ほんの少し、永遠を信じてみたくなるのでした。

 夜明けはもうすぐです。

だって太陽が、不安や恐怖をまるごと覆い隠してくれる明るい光でもって、今日もまた仄暗い夜を見届けてゆくのですから!睡魔甘々とろりと楽しく過ごした昨日が、素敵な思い出となってまた一つ海馬に刻まれるのですから!

 

やよちゃんが今日もお月様のような優しさで、わたしの心を包み込んでくれるのですから。